今から40年ほど前、日本は世界の半導体生産の50%を占め圧倒的トップを独走。その中
で九州は「シリコンアイランド」と呼ばれ、この小さな九州だけで世界シェアの10%でした。企業ではNEC、日立、東芝が1、2、3位で、上位10社の中に日本企業が6社を占めていましたから、輝く時代でした。年配の方なら覚えているでしょ。 ところが今、日本のシェアは世界の10%。企業でもトップ10社には1社も入らず凋落、落ち目もいいとこ、残念な時代になったもんです。
そんな半導体産業の現状を、何とかせなん!というのが日本経済の大きな課題。どがしこでん72号でチラッと紹介した、半導体の受託生産では世界最大手の台湾企業TSMCの熊本県菊陽町進出が起爆剤となって、九州がにわかに新生シリコンアイランド…などという声が聞こえ始めています。 そこで「どがしこでん」は、九州の復活、日本経済の復権に果敢に挑むプロジェクトを追ってみました。 そうです、大牟田には高専があるのです!ハイ~?確かに高専ダゴもあります大牟田には…結構有名ですよね(^^; じゃなくて独立行政法人国立高等専門学校機構有明工業高等専門学校のほうの高専です。 ふぅ…読むのも難しい名前ですが、中身もこれから難しくなります、ついてきてください。
この有明高専に昨年4月、サーキットデザイン教育センターが開設されました。センター長は石川洋平教授(電子回路)。サーキット…車やオートバイでグルグル回るコースを思い浮かべてください、回路です。ただし車じゃなくて電気が回るこの回路をデザインする、つまり設計する人材を育てるところ。サーキットデザインとは回路設計を親しみやすく感じてもらうための石川教授の造語なんですよ。 高専発行の「事業概要」では設置の目的を「(前半の大半略)…科学技術の急速な進歩や社会の変化に柔軟に対応できる、知識と創造性を兼ね備え、日本の半導体産業の発展を支える人材を育成します」と。要するに半導体のプロを養成すること。9行前に書いていましたね。
全国の高専・大学との連携
有明高専が取り組んでいる半導体人材育成の具体例をいくつか紹介します。熊本高専と佐世保高専を拠点校とし、有明高専が実践校となって全国の高専が連携して教育する体制を作り上げたこと。東京大学(の大学院工学系研究科に設置されたシステムデザイン研究センター=d・lab)と半導体人材育成分野における包括的連携協定を締結したこと。つまり全国の高専、大学との連携を通し、将来の半導体産業を支える優秀な人材を輩出しようという仕組みを作ったということです。
グローバルと起業家マインドも大事
人材育成はもちろん知識と技術・技能を習得するのが第一。でもそれだけでいいというのではありません。有明高専では、グローバル化が加速する中、国際的に活躍できる能力を重視し、グローバル・エデュケーションセンターを設置、外国人教員による授業や学年全員を対象とした海外研修、海外留学、海外の大学や企業との共同研究にも取り組んでいるのです。 もうひとつ大事なことが起業家マインド。つまり起業に必要な創造性やリーダーシップ、挑戦する気持ち、問題解決能力を付けること。アイデアをカタチにするための思考、市場分析、ビジネスモデル構築、資金調達などを体系的に教えるのです。 さらにビジネスプランコンテストへの参加促進、実際に起業した人を講師に迎えた講演会やセミナー開催も行っています。学生が主体的に起業家マインドを習得することを支援していくのです。 2024年3月に東京で開催された第1回高専起業家サミットでは全国50の高専が参加する中、有明高専は「KOSEN サーキットデザイン教育インストラクター 養成ビジネス」で優秀賞に輝きました。半導体や集積回路の設計人材を育成するための教材開発などがビジネス内容でした。
読者の皆さん、難しいでしょうがついてきてください。小学生でもやっているんですから―ということで、次は大牟田市内の小学生を対象とした半導体授業のお話です。 大牟田市は、学校教育振興事業計画の一つデジタル人材育成事業として半導体の授業を行いました。昨年6月30日に中友小学校に有明高専サーキットデザイン教育センターの野口卓朗副センター長(准教授)を講師に迎え、6年生児童に半導体製造に不可欠な回路設計の基本を学ぶ授業を行いました。 野口副センター長は、半導体が電気製品や車、機械など身の回りの様々なものに使われている大事なものであることを説明。また本物のシリコンウエハーを持ち込んで、シリコンを含む鉱石を精錬して薄くスライスしてウエハーを作り、これを小さくカットしたものがチップになるなど、半導体の製造方法を説明しました。 児童たちは、小さめの高専ダゴのようなサイズ(ただし超薄いですが)のシリコンウエハーを手で触りながら、興味深げでした。 また半導体は、ザックリ言うと、チップの上に層を重ねて回路を作るから、塗り絵を重ねるのと似たようなもの。野口副センター長のリードで、児童たちは異なる形に切り抜いた4枚の型紙を使って色鉛筆で型紙の下の紙に色付けし、これをかさねて回路づくりを体験しました。次にパソコンを使ってゲーム感覚でメタバース(現実空間のように作られた仮想空間)上で半導体づくりを体験しました。 この塗り絵で半導体を学べる型紙などのキットは、有明高専が特許を取得しています。作っているのは大牟田市天道町にある精巧印刷株式会社。体験ソフトは大牟田市内で高専OBが設立した株式会社ASKプロジェクトが開発しました。こうした半導体教育が全国に広がれば、地域の企業にも少なからぬメリットがあるはずです。 中友小での授業には市内全小学校の6年生担当教師も同席していて、同様の授業をそれぞれの学校に戻って行いました。 教育委員会では、「まずは子どもたちが半導体に興味を持ってもらうことがデジタル人材育成の入口。2026年度も秋ごろに同様の授業を行う計画です」と話しています。

野口卓朗さん
有明高専創造工学科 准教授 サーキットデザイン教育センター 副センター長 大牟田市生まれ。中友小、松原中、有明高専、 佐賀大学大学院卒。 2014年に銀座通り商店街にまちなかシリコン バレー・株式会社ASKプロジェクトを設立。 どがしこでん11号「スペシャルインタビュー」(2014年6月1日発行)で紹介。 2017年に母校である有明高専に着任し、 サーキットデザイン教育や起業家教育を推進。
産学連携マッチングラボ
地域・企業の研究課題を、高専の教授ら研究グループと企業研究者が共同研究し、学生も卒業研究の一環で参加する仕組みです。有明高専では、これまでに木村情報技術やASKプロジェクト、旭製作所、佐賀銀行、三井三池製作所などとの共同研究に取り組んでいます。 マッチングラボは、学生の研究力・プレゼンスの向上に結び付き、企業も研究に専念できる環境が整備されるという、双方のメリットがあるのです。
どうです。全国の高専をリードし、東大とも協定して学校内外で活躍している有明高専。すごいでしょ!野口副センター長は言ってました「高専には、大牟田を盛り上げたいという同志が多くいて…」と。そんな情熱が次の世代に繋がっていけば未来は明るい。われらの、高専ダ!GO!(乗りすぎました)。
小中学生を対象に講座『ものづくり体験教室』は1000人が殺到
有明高専の地域交流を紹介します。 2025年度は、大牟田市と荒尾市の小中学校などで「カラフルな人工イクラを造ってみよう」「巨大空気砲を作ろう!」など、高専の校内でも「ものづくり体験教室」「きのくにロボットフェスティバル2025」、「高専ハカセ塾」など20講座を開催しています。 中でも8月に開催された「ものづくり体験講座」は約1000人が来場するほどの人気。今年は8月20日に開催されます。講座は「プログラミングを体験しよう」「レーザービームで工作体験」「模型でつくる憧れのマイハウス」「電子オルゴールを鳴らしてみよう!」「石炭アクセサリーをつくろう」「思ってもいないところからエネルギーをつくり出してみよう」「初めてのロボットづくり」など21講座。大牟田市の小学生が挑戦した半導体回路づくりも体験できます。興味のある講座を見つけて参加してみては? 1講座は15分から90分まで様々。予約制と予約なしで参加できる講座があるので、確認してください。

ものづくり体験教室
- 日時/8月20日(木)
- 午前の部/ 9:30~12:00
- 午後の部/13:00~16:30
- 参加/無料
- 会場/有明高専内各棟
駐車場に限りがあるので、公共交通 機関での来場をおすすめします。 申し込みが必要な講座は、8月初旬 にHPから受け付けます。
きのくに ロボットフェスティバル 組立・改造講習会
- 日時/9月26日(土)
- 予選会:11月7日(土)
- 対象/小・中学生
全国の高専生が技術とアイデアを競う人気のイベント。有明高専は2012年に安川電機賞、2022年はデザイン賞に輝きました。
有明工業高等専門学校
福岡県大牟田市東萩尾町150 TEL.0944-53-8611
1学科(創造工学科)・6コース
●エネルギー ●応用化学 ●環境生命 ●メカニクス ●情報システム ●建築
1学年定員200人。5年制。専攻科あり。 在学生数1025人(2026年5月1日現在) 地域共同テクノセンター、サーキットデザイン教育センター、グローバルエデュケーションセンター開設。高専ロボットコンテストをはじめプログラミング、デザインコンペティション、英語プレゼンテーションなどの各コンテストに参加、優秀成績を収める。多様な地域交流活動を積極的に展開。
■取材協力・写真提供:有明高専